前回までは主にデッサンについて書いてきましたが、今回は着彩について述べたいと思います。
ここで言う着彩とは、透明水彩を使う静物画です。なぜ透明水彩に限定するのかというと、透明水彩はその名の通りに透明度が高くて、下の色を消してしまうことはありません。この性質を積極的に利用し、下塗りと上塗りという方法で、色彩に厚みを持たすことができます。これは、不透明水彩の代表であるポスターカラーとは正反対です。
ポスターカラーは混色して使いますが、誰でも同じ色を作ることが出来るように、混ぜ合わせる色の番号と分量が指定されています。これはペンキも同じです。この厳密さがあるからこそ、デザイン側と印刷側で色の共通認識が出来たのです。パソコン時代の現在では、RGBやCMYの三原色の割合で色指定されますが。
このように、透明水彩は重ね塗りが前提とされるもので、ホワイトなどの一部を除いて、下の線や色がマスクされることはありません。重ねるという意味では、画像編集ソフトのレイヤーと同じですが、レイヤーは層という意味なので、アニメのセルと考え方が同じです。レイヤーは透過度を自由に決められるので、透明水彩のように下位レイヤーの線や色が見えるように使うこともできます。
透明水彩は下の線や色が透けて見える。この性質は日本画でも同じです。日本画の場合は、岩絵の具の粒子が大きければ、下に描いたものが粒子の間から透けて見えます。粒子が細かくなると、不透明に近付きますが、岩絵の具はガラスに色を付けたものが多いので、自然に半透明の性質を有する色もあるのです。牡蠣や蛤の貝殻から作られる胡粉などは完全に不透明で、中国の黄砂である黄土も不透明に近いです。
日本画の技法は、最初に補色などを下塗りしておきます。百合の花の葉を塗る時は、はじめに朱色を薄く塗っておくのです。こうすることにより、色に深みが出てきます。また、下塗りの色を変えることで、最初から位置関係や立体感などを強調することが出来るのです。例えば、遠くの葉は青く下塗りをし、手前の葉は黄色く下塗りしておけば、それだけで遠近感が出るのです。下塗りだけで空間や質感が出るのが理想です。
このように下塗りを施した上に、いわゆるモチーフの固有色を重ねて行きます。もっとも、固有色という考え方は固定観念につながるので好ましくないのですけど。例えば、リンゴは赤いという固定観念があれば、初心者はリンゴを真っ赤にします。しかも、立体感をつけようと必死になるので、青や緑に茶色を影と陰の部分に使います。こうして、この初心者は立派な毒リンゴを完成できました。めでたし、めでたし。
ところが、中にはへそ曲がりの初心者がいて、リンゴは単純に赤いのではないと気が付きます。しかし、技術がないので、赤が強調されないように必死になった結果、見事な焼きリンゴが出来上がります。めでたし、めでたし。
失敗したのになぜ、めでたいのか?それは、毒リンゴと焼きリンゴの描き方を学んだからです。これを経験則と言います。この経験則の積み重ねと反省が、やがて本物のリンゴに結実するようになるのです。もっとも、リンゴは石膏のブルータスよりも難しいので、本当にみずみずしいリンゴを描くのは至難の業ですが。デッサン力が露骨に出るモチーフの代表です。
ということで、今回のまとめ。
1.着彩は透明水彩を用いるので下塗りが必要
2.下塗りの段階で立体感や空間が表現できるようにする
3.固有色にとらわれ過ぎると失敗する
4.固有色は、石膏像の白さと同じように、感じさせるという態度が必要
5.毒リンゴと焼きリンゴになったら、次回に経験を活かす
透明水彩や岩絵の具の使い方は、基本的に鉛筆デッサンの技法と同じなのです。大きなトーンを塗って、細部を描き、またトーンを大きく見直す。しかし、中には古典的な技法で、輪郭線を描いて塗りつぶすという人もいます。これを否定するわけではありませんが、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵に色面(しきめん)を見ることの出来る目と感性が必要です。名画は例外なく、目を細めて見れば、色面による色彩構成にもなっているからです。
エフライム工房 平御幸
ここで言う着彩とは、透明水彩を使う静物画です。なぜ透明水彩に限定するのかというと、透明水彩はその名の通りに透明度が高くて、下の色を消してしまうことはありません。この性質を積極的に利用し、下塗りと上塗りという方法で、色彩に厚みを持たすことができます。これは、不透明水彩の代表であるポスターカラーとは正反対です。
ポスターカラーは混色して使いますが、誰でも同じ色を作ることが出来るように、混ぜ合わせる色の番号と分量が指定されています。これはペンキも同じです。この厳密さがあるからこそ、デザイン側と印刷側で色の共通認識が出来たのです。パソコン時代の現在では、RGBやCMYの三原色の割合で色指定されますが。
このように、透明水彩は重ね塗りが前提とされるもので、ホワイトなどの一部を除いて、下の線や色がマスクされることはありません。重ねるという意味では、画像編集ソフトのレイヤーと同じですが、レイヤーは層という意味なので、アニメのセルと考え方が同じです。レイヤーは透過度を自由に決められるので、透明水彩のように下位レイヤーの線や色が見えるように使うこともできます。
透明水彩は下の線や色が透けて見える。この性質は日本画でも同じです。日本画の場合は、岩絵の具の粒子が大きければ、下に描いたものが粒子の間から透けて見えます。粒子が細かくなると、不透明に近付きますが、岩絵の具はガラスに色を付けたものが多いので、自然に半透明の性質を有する色もあるのです。牡蠣や蛤の貝殻から作られる胡粉などは完全に不透明で、中国の黄砂である黄土も不透明に近いです。
日本画の技法は、最初に補色などを下塗りしておきます。百合の花の葉を塗る時は、はじめに朱色を薄く塗っておくのです。こうすることにより、色に深みが出てきます。また、下塗りの色を変えることで、最初から位置関係や立体感などを強調することが出来るのです。例えば、遠くの葉は青く下塗りをし、手前の葉は黄色く下塗りしておけば、それだけで遠近感が出るのです。下塗りだけで空間や質感が出るのが理想です。
このように下塗りを施した上に、いわゆるモチーフの固有色を重ねて行きます。もっとも、固有色という考え方は固定観念につながるので好ましくないのですけど。例えば、リンゴは赤いという固定観念があれば、初心者はリンゴを真っ赤にします。しかも、立体感をつけようと必死になるので、青や緑に茶色を影と陰の部分に使います。こうして、この初心者は立派な毒リンゴを完成できました。めでたし、めでたし。
ところが、中にはへそ曲がりの初心者がいて、リンゴは単純に赤いのではないと気が付きます。しかし、技術がないので、赤が強調されないように必死になった結果、見事な焼きリンゴが出来上がります。めでたし、めでたし。
失敗したのになぜ、めでたいのか?それは、毒リンゴと焼きリンゴの描き方を学んだからです。これを経験則と言います。この経験則の積み重ねと反省が、やがて本物のリンゴに結実するようになるのです。もっとも、リンゴは石膏のブルータスよりも難しいので、本当にみずみずしいリンゴを描くのは至難の業ですが。デッサン力が露骨に出るモチーフの代表です。
ということで、今回のまとめ。
1.着彩は透明水彩を用いるので下塗りが必要
2.下塗りの段階で立体感や空間が表現できるようにする
3.固有色にとらわれ過ぎると失敗する
4.固有色は、石膏像の白さと同じように、感じさせるという態度が必要
5.毒リンゴと焼きリンゴになったら、次回に経験を活かす
透明水彩や岩絵の具の使い方は、基本的に鉛筆デッサンの技法と同じなのです。大きなトーンを塗って、細部を描き、またトーンを大きく見直す。しかし、中には古典的な技法で、輪郭線を描いて塗りつぶすという人もいます。これを否定するわけではありませんが、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵に色面(しきめん)を見ることの出来る目と感性が必要です。名画は例外なく、目を細めて見れば、色面による色彩構成にもなっているからです。
エフライム工房 平御幸