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Channel: 平御幸(Miyuki.Taira)の鳥瞰図
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平御幸のデッサン講座〜第8回 グレーと灰色

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 初心者のデッサンは、階調表現が出来ないので、コントラストの強いギラギラか、反対に全体が均一の灰色になります。これをオーディオに例えると、高音と低音が突っ張ったドンシャリと、どこにもアクセントがなくてボケた音という感じです。

 コントラストが強い人は中間階調が使えず、ぼけた灰色の人は中間の色ばかりで描いているのです。しかし、この中間階調ばかりの灰色は、いわゆるハーフトーンとは根本的に違います。デッサンの理想であるハーフトーンと灰色はどこが違うのか?

 初心者の石膏デッサンは、石膏を白く描こうとして、結果的にぼけた階調になります。石膏は白いのだから、鉛筆でも木炭でも薄く少なめに使うと思いがちです。でも、石膏は白く描いてはならないのです。白く感じさせるように描くのが正解です。白いから白く描くのと、白を感じさせるように描く事の違い。絵は大半が錯覚で出来ているという命題を思い出してください。錯覚で白く感じさせるのがデッサンなのです。

 新聞紙は白くて、印刷された字は黒い。実は、これも間違いです。デッサンする目が慣れてくると、文字はグレーに引きこまれます。新聞紙も白ではなくて、明るいグレーに見えてきます。このような目というか脳の働きで、階調も固定されないで変化するのです。だから、グレースケールの階調があったとしても、それも絶対ではなくて、見え方や感じ方が変化するものなのです。

 さて、ここまでは前置きです。ここから本題に入ります。レオナルド・ダ・ヴィンチには、『聖ヒエロニムス』や、『東方三博士の礼拝』という未完の作品があります。礼拝は仏教では「らいはい」と読み、その他では「れいはい」が正しいようです。

 この2つの作品は共にセピア調ですが、実は基本的にグレーなのです。グレーの上から、光を表現する明るいセピアがコーティングされた感じです。実際にはどうか分かりませんが、少なくともデッサンの技法的にはグレーなのです。この時代のグリーンは、黒と黄色の混色で作られたので木の葉が黒っぽいのですが、制作の初期段階でこれだけ強い色を置くことで、階調のダイナミックレンジを確保しているのです。水墨画の、濃い墨の色の部分と同じです。

 レオナルド・ダ・ヴィンチがなぜグレーで描き始めるのかというと、それはグレーの持つ自在性にあると考えられます。僕は日本画の岩絵の具で実験していたのですが、グレーにしておけば、あらゆる色彩に移行できるのです。なぜかと言うと、グレーは灰色の単色ではなく、実はすべての色が混在した色と位置付けられるからです。

 グレーにはすべての色が含まれる。だから、グレーから他の色に移行しやすい。これが、デッサンの階調なら石膏像は白く感じられ、墨絵なら「墨に五彩あり」となるのです。これが応用されたのが、モノクロ写真に着彩するカラー化です。しかし、パソコンのプリンターは、本来は黒のないカラープリントでも黒を使うので、色彩が黒ずんで見えるのです。グレースケールの作品に色を描き加えるのと、最初から黒も交えてカラープリントするのでは大きな違いがあるのです。

 ということで、今回のまとめ。次回は、毒リンゴと焼きリンゴ。

1.良いデッサンはハーフトーンであり、石膏を白く感じさせる
2.立体感や空間が表現できれば、その作品はハーフトーンになっている
3.グレーはすべての色に移行しやすい
4.グレーのハーフトーンと灰色は違う
5.ハーフトーンも強い(黒い)色を使うから階調のダイナミックレンジが広がる

     エフライム工房 平御幸

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