デッサンの勉強をする場合、最初に描かされるのは石膏の幾何形体です。なぜかと言うと、人体でも花でも、幾何学的な構造が根底にあるからです。また、幾何形体には立体感の表現の基本となる要素が凝縮され、複雑な彫刻でもこの基本から外れることはありません。
立体感の説明として一番分かりやすいのは月です。夜空に浮かぶ欠けた月は、なぜ立体的に見えないのでしょうか?立体的に見えないからこそ、古の人は平らな円盤だと思ったのです。
その理由は、月には反射光がないからです。月の表面には太陽からの直接光だけが当たり、陰と影の部分は真っ暗になります。これは地球上では起こらない現象です。なぜかと言うと、地球上のありとあらゆる物が反射光を浴びているからです。具体的な例を上げましょう。下の画像は白い箱ですが、片方は台紙と壁を赤くしています。その結果、何もない場合は青白く感じた陰の部分が赤く染まっています。この赤く染めたものが、台と壁からの反射光です。
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反射光の部分は明るく彩度が低い
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このように反射光の部分は赤く染まる
古いデッサンの技術書では、この現象を光の回折(かいせつ)で説明しています。大阪で教えていた時に、武蔵野美大の油絵出身の先生が回折ではないかと質問してきました。そこで、赤い布切れの付いたハタキを石膏像の近くに持って行ったら、石膏像の陰の部分が赤くなったのです。生徒が驚くほど一目瞭然でした。ちなみに回折とは、光や音で起こるエッジでの乱反射で、スピーカーの場合にも、バッフルの角で音の乱反射を起こし、音を悪くすると言われています。乱反射では月の陰が真っ黒になる説明は出来ません。
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石膏では顎の下や鼻の下などが反射光で明るくなる
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顎の下だけでなく、頬などは全体が赤く染まっている
胸の切り口は、黒い台座が剥き出しの所は反射光も黒い
もしも、月の近くに反射光を投影する物体があれば、月の陰の部分はほのかに明るくなり、立体感が感じられるようになります。では、反射光をデッサンではどのように表現すべきか?それは、木炭でも鉛筆でも、彩度を下げてやれば良いのです。
デッサンの基本として、明度の変化は誰でも付けますが、実は彩度の変化が重要なのです。同じ明るさでも、彩度が下がると引っ込みます。絵の具の場合は、ホワイトを混ぜれば彩度は下がりますから、遠景を表現したい時はホワイトを混ぜます。
木炭で彩度を下げるには、ガーゼで擦るのが有効です。鉛筆の場合は、同じように擦るか、3H以上の硬い鉛筆で描きます。一口に彩度を下げると言っても、多様なやり方があり、僕は一度練りゴムで抜き取ってから指で擦っていました。練りゴムで紙の表面を傷めることで、木目の細かい色調になるからです。逆に言えば、明るい部分のトーンの変化は余り擦らないで、鉛筆や木炭の生の色を使うと有効。こうして、「明るい・暗い・反射光」を描くことで立体感が出てきます。
また、トーンの変化は、マス目を塗り分けるグラデーションで、デジタル的に理解できます。グラデーションを作る場合、マス目を一個ずつ塗ったら失敗します。最初に一番黒い色から白い色まで、一気呵成に塗るのです。だから、最初だけが強くて、あとは惰性で弱くなる感じです。このようにして作ったベースを、マス目で分割して修正すれば綺麗なグラデーションが出来上がります。
グラデーションの性質として、境目が強調されるという現象が起こります→こちら。隣接する色面で、濃い側の端はより暗く感じられ、薄い側の端はより明るく感じられます。絵画は目の錯覚を利用する芸術ですが、グラデーションも目の錯覚なのです。これを積極的に利用することで、石膏デッサンでも色面の変化を強調できるのです。
今回のまとめとして、以下のようになります。
1.立体感を出すには「明るい・暗い・反射光」を観察して描き分ける。
2.反射光は、擦るか硬い鉛筆で彩度を落とす。
3.グラデーションの基本は、「境目が強調される」という現象。
4.以上により、陰の最初の部分が強調され、そこから一気に反射光となる。
5.反射光の部分は明るく見えても、光が直接当たる部分よりは絶対に明るくはならない。
6.トーンの変化を見るには、目を極限まで細くして観察する。
エフライム工房 平御幸
立体感の説明として一番分かりやすいのは月です。夜空に浮かぶ欠けた月は、なぜ立体的に見えないのでしょうか?立体的に見えないからこそ、古の人は平らな円盤だと思ったのです。
その理由は、月には反射光がないからです。月の表面には太陽からの直接光だけが当たり、陰と影の部分は真っ暗になります。これは地球上では起こらない現象です。なぜかと言うと、地球上のありとあらゆる物が反射光を浴びているからです。具体的な例を上げましょう。下の画像は白い箱ですが、片方は台紙と壁を赤くしています。その結果、何もない場合は青白く感じた陰の部分が赤く染まっています。この赤く染めたものが、台と壁からの反射光です。
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反射光の部分は明るく彩度が低い
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このように反射光の部分は赤く染まる
古いデッサンの技術書では、この現象を光の回折(かいせつ)で説明しています。大阪で教えていた時に、武蔵野美大の油絵出身の先生が回折ではないかと質問してきました。そこで、赤い布切れの付いたハタキを石膏像の近くに持って行ったら、石膏像の陰の部分が赤くなったのです。生徒が驚くほど一目瞭然でした。ちなみに回折とは、光や音で起こるエッジでの乱反射で、スピーカーの場合にも、バッフルの角で音の乱反射を起こし、音を悪くすると言われています。乱反射では月の陰が真っ黒になる説明は出来ません。
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石膏では顎の下や鼻の下などが反射光で明るくなる
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顎の下だけでなく、頬などは全体が赤く染まっている
胸の切り口は、黒い台座が剥き出しの所は反射光も黒い
もしも、月の近くに反射光を投影する物体があれば、月の陰の部分はほのかに明るくなり、立体感が感じられるようになります。では、反射光をデッサンではどのように表現すべきか?それは、木炭でも鉛筆でも、彩度を下げてやれば良いのです。
デッサンの基本として、明度の変化は誰でも付けますが、実は彩度の変化が重要なのです。同じ明るさでも、彩度が下がると引っ込みます。絵の具の場合は、ホワイトを混ぜれば彩度は下がりますから、遠景を表現したい時はホワイトを混ぜます。
木炭で彩度を下げるには、ガーゼで擦るのが有効です。鉛筆の場合は、同じように擦るか、3H以上の硬い鉛筆で描きます。一口に彩度を下げると言っても、多様なやり方があり、僕は一度練りゴムで抜き取ってから指で擦っていました。練りゴムで紙の表面を傷めることで、木目の細かい色調になるからです。逆に言えば、明るい部分のトーンの変化は余り擦らないで、鉛筆や木炭の生の色を使うと有効。こうして、「明るい・暗い・反射光」を描くことで立体感が出てきます。
また、トーンの変化は、マス目を塗り分けるグラデーションで、デジタル的に理解できます。グラデーションを作る場合、マス目を一個ずつ塗ったら失敗します。最初に一番黒い色から白い色まで、一気呵成に塗るのです。だから、最初だけが強くて、あとは惰性で弱くなる感じです。このようにして作ったベースを、マス目で分割して修正すれば綺麗なグラデーションが出来上がります。
グラデーションの性質として、境目が強調されるという現象が起こります→こちら。隣接する色面で、濃い側の端はより暗く感じられ、薄い側の端はより明るく感じられます。絵画は目の錯覚を利用する芸術ですが、グラデーションも目の錯覚なのです。これを積極的に利用することで、石膏デッサンでも色面の変化を強調できるのです。
今回のまとめとして、以下のようになります。
1.立体感を出すには「明るい・暗い・反射光」を観察して描き分ける。
2.反射光は、擦るか硬い鉛筆で彩度を落とす。
3.グラデーションの基本は、「境目が強調される」という現象。
4.以上により、陰の最初の部分が強調され、そこから一気に反射光となる。
5.反射光の部分は明るく見えても、光が直接当たる部分よりは絶対に明るくはならない。
6.トーンの変化を見るには、目を極限まで細くして観察する。
エフライム工房 平御幸