ようやく完動状態になりました。残る作業は内部配線の交換と、整流回路のダイオード交換だけです。整流ダイオードは雑音の少ないショットキーバリアというのを購入済みなのですが、何故か行方不明なので出てきたら交換します。
今回の修理は、数年前に受けたいい加減な修理の修復となりました。下手な医者にかかって悪化した患部を再手術するのと同じです。前回に書いた入力基板の割れ。実は、基板が割れていただけでなく、パターンに添って盛り上げたハンダが多すぎて、隣のRチャンネルパターンと導通している部分があったのです。写真でも分かりますが、割れた部分に大面積で流し込まれたハンダが、基板の中央付近で上隣のパターンに侵食しています↓。
修理屋が破壊した入力基板
入力をコンデンサー入力だけにして切り替えなしに
ラムダコンデンサーは厚紙のバネ(右)とビーズバンド(左)で固定
左が高級なラムダコンデンサー 1.3μF
右2種類は修理屋が付けた150円位のフィルムコンデンサー(赤)1.0μFと
追加で付けられていた60円の 0.1μFポリエステルフィルムコンデンサー(黄)
0.1程度だと追加する意味ないし、両方共オリジナルより劣る
この結果、シャシーアースと右チャンネルの入力がショートし、バイアス電流が過剰に流れて危険な状態になります。この機種は出力(スピーカー端子)のマイナス側も18Ωの抵抗でシャーシーアースとつながっています。電解コンデンサーに電気が溜まったままMOS-FETを取り付けようとして煙が出ました。MOS-FETも既に壊れていたので、この18Ωの抵抗が焼けたのです。外してみたら87Ωになっていました。入力側は10Ωですが、こちらも焼損して410Ωでした。僕が修理する前からどちらも焼損していたのです。
焼損していた18Ω抵抗
このアンプは終段のパワーMOS-FETが壊れることは滅多に無く、壊れるほどの大電流が流れるときは、保護用に使われているヒューズ抵抗が焼けて回路が遮断される仕組みです。しかし、このアンプ独特のノンカットオフバイアス回路(擬似A級回路の一つ)に使われる集積回路TM1001は故障が多く、このアンプもTM1001に修理した痕跡がありました。このTM1001が壊れると純A級アンプになって、常時大電流が流れてヒートシンクがチンチンに熱くなります。
酷い修理をした修理屋は、この集積回路につながっている1/4ワット150Ωヒューズ抵抗を、電力が二倍でも焼き切れない1/2ワットの金属皮膜抵抗に交換していたのです。回路を守るために焼き切れるから1/4ワット指定なのです。その指定容量を無視して勝手に二倍の1/2ワットにされたら、回路を守ることができない大電流が流れます。その結果として集積回路が故障するので、指定の二倍にした修理屋は本末転倒も甚だしい。
中央の緑色の2本の抵抗が容量オーバーの1/2Wタイプ
1/4Wタイプに交換
左端のトランジスタのヒートシンクも電気を通さないプラスチック製ネジにしてショート事故防止
人間でも発熱すると寝込みます。寝るから治る。しかし、医者が解熱剤や興奮剤を大量に投与して見かけ上だけ元気にする治療法があったとします。この患者は肉体的限界を超えた時に突然死します。このアンプを修理した修理屋は、突然死させる医者と同じなのです。だから、修理後たった4年でボロボロになってジャンクとして売られた。アンプが可哀相です。
僕が修理するときは、トランジスタのペア(2個一組で使われるセット)やコンプリメンタリー(プラス側とマイナス側のセット)の増幅率を極限まで一致させ、アンプに無理な動作がかからないで歪みが小さくなるように配慮しています。誤差は1%もないから、100万円クラスのアンプより高精度かもしれません。おそらく、一番誤差のあるのが初段のデュアルFETと終段のMOS-FETです。
ペアやコンプリをきちんと合わせれば、調整指定が5mV以内という直流漏れ(スピーカー出力に直流電圧がかかること)も、容易に0.5mV前後に収まることになります。もっとも、使っているうちにずれてきますけど。
Lチャンネルの直流漏れ0.3mV(上)とバイアス値
Rチャンネルの直流漏れ0.7mV(上)とバイアス値
HMA-9500Ⅱは、パーツのばらつきを吸収する回路になっています。だから、増幅率を合わせなくても良い音で再生するのですが、きっちり合わせれば次元の違う空間が表現されてきます。参考までに、取り外した古いパーツの増幅率hFEを掲載しておきます。ただし、数値は絶対的なものではなく、あくまでも僕の測定条件下での数値です。気温や測定回路で数値が変化するのだから、絶対的な数値など無いのです。大事なのは、取り付ける直前に測定してペアやコンプリが取れていることです。
初段カスコードペア(Qは回路図での番号)
Q701L 2SD666 hFE 87/ Q702L 2SD666 hFE 97 誤差11%
Q701R 2SD666 hFE 97/ Q702R 2SD666 hFE 102 誤差5%
(LRとも2SD667 hFE 185ペアに交換)
2段目ペア
Q703L 2SB648A hFE 112/ Q704L 2SB648A hFE 115 誤差3%
Q703R 2SB648A hFE 100/ Q704R 2SB648A hFE 115 誤差15%
(L 2SB648A hFE 119ペア、R 2SB648A hFE 117ペアに交換)
2段目カスコードペア
Q715L 2SC1775E hFE 408/ Q716L 2SC1775E hFE 495 誤差21%
Q715R 2SC1775E hFE 500/ Q716R 2SC1775E hFE 468 誤差6.5%
(L 2SC1775E hFE 395/396ペア、R 2SC1775E hFE 397ペアに交換)
3段目コンプリ
Q713L 2SD669A hFE 115/ Q714L 2SB649A hFE 148 誤差28%
Q713R 2SD669A hFE 123/ Q714R 2SB649A hFE 126 誤差2.4%
(L 2SD669A/2SB649A hFE 121コンプリ、R 2SD669A/2SB649A hFE 123コンプリに交換)
おそらく、比較的合っているのはオリジナルから壊れずに残っているトランジスタ。誤差の大きい物は修理屋が買ってきて取り付けたものだと思います。トランジスタ全交換と書いてあっても、全てに新品を使ったとは書いてありませんから、別のアンプからの取り外し品も交換に使われていたと思います。
僕の修理では、トランジスタ選別段階から1分測定をして使っています。選別品を売っている業者は30秒足らずの測定で、これでは数字が信用できません。測定し始めて、約1分頃に数字が1だけ変化することも多いからです。そうやって数字が完全に一致した未使用品を使っていますが、使えるトランジスタが絶滅しかけているので、泣く泣く1違いの誤差0.2%~0.5%も使うことがあります。
本当は誤差があっても良い定電圧電源とか保護回路とかも、せっかく選別したのだからと誤差のないものを使っています。信号増幅回路の誤差は3%以内なら超高級品アンプなので、僕のやっていることは無駄といえば無駄、悪あがきといえば悪あがきですけど。HMA-9500やHMA-9500Ⅱには、それだけ注いでも惜しくない魅力があるということです。でも、選別から漏れたトランジスタの使い道も考えないと (;^ω^)
修理完了後
右後ろはパイオニアのプリアンプC-90a
1988年の発売だから佐藤あり紗さんの生まれた1989年の製品かも
大洗祭り号のガルパン新聞と記念写真
イエスの遺体に掛けたとされる亜麻布の上に置いて修理している
エフライム工房 平御幸
今回の修理は、数年前に受けたいい加減な修理の修復となりました。下手な医者にかかって悪化した患部を再手術するのと同じです。前回に書いた入力基板の割れ。実は、基板が割れていただけでなく、パターンに添って盛り上げたハンダが多すぎて、隣のRチャンネルパターンと導通している部分があったのです。写真でも分かりますが、割れた部分に大面積で流し込まれたハンダが、基板の中央付近で上隣のパターンに侵食しています↓。
修理屋が破壊した入力基板
入力をコンデンサー入力だけにして切り替えなしに
ラムダコンデンサーは厚紙のバネ(右)とビーズバンド(左)で固定
左が高級なラムダコンデンサー 1.3μF
右2種類は修理屋が付けた150円位のフィルムコンデンサー(赤)1.0μFと
追加で付けられていた60円の 0.1μFポリエステルフィルムコンデンサー(黄)
0.1程度だと追加する意味ないし、両方共オリジナルより劣る
この結果、シャシーアースと右チャンネルの入力がショートし、バイアス電流が過剰に流れて危険な状態になります。この機種は出力(スピーカー端子)のマイナス側も18Ωの抵抗でシャーシーアースとつながっています。電解コンデンサーに電気が溜まったままMOS-FETを取り付けようとして煙が出ました。MOS-FETも既に壊れていたので、この18Ωの抵抗が焼けたのです。外してみたら87Ωになっていました。入力側は10Ωですが、こちらも焼損して410Ωでした。僕が修理する前からどちらも焼損していたのです。
焼損していた18Ω抵抗
このアンプは終段のパワーMOS-FETが壊れることは滅多に無く、壊れるほどの大電流が流れるときは、保護用に使われているヒューズ抵抗が焼けて回路が遮断される仕組みです。しかし、このアンプ独特のノンカットオフバイアス回路(擬似A級回路の一つ)に使われる集積回路TM1001は故障が多く、このアンプもTM1001に修理した痕跡がありました。このTM1001が壊れると純A級アンプになって、常時大電流が流れてヒートシンクがチンチンに熱くなります。
酷い修理をした修理屋は、この集積回路につながっている1/4ワット150Ωヒューズ抵抗を、電力が二倍でも焼き切れない1/2ワットの金属皮膜抵抗に交換していたのです。回路を守るために焼き切れるから1/4ワット指定なのです。その指定容量を無視して勝手に二倍の1/2ワットにされたら、回路を守ることができない大電流が流れます。その結果として集積回路が故障するので、指定の二倍にした修理屋は本末転倒も甚だしい。
中央の緑色の2本の抵抗が容量オーバーの1/2Wタイプ
1/4Wタイプに交換
左端のトランジスタのヒートシンクも電気を通さないプラスチック製ネジにしてショート事故防止
人間でも発熱すると寝込みます。寝るから治る。しかし、医者が解熱剤や興奮剤を大量に投与して見かけ上だけ元気にする治療法があったとします。この患者は肉体的限界を超えた時に突然死します。このアンプを修理した修理屋は、突然死させる医者と同じなのです。だから、修理後たった4年でボロボロになってジャンクとして売られた。アンプが可哀相です。
僕が修理するときは、トランジスタのペア(2個一組で使われるセット)やコンプリメンタリー(プラス側とマイナス側のセット)の増幅率を極限まで一致させ、アンプに無理な動作がかからないで歪みが小さくなるように配慮しています。誤差は1%もないから、100万円クラスのアンプより高精度かもしれません。おそらく、一番誤差のあるのが初段のデュアルFETと終段のMOS-FETです。
ペアやコンプリをきちんと合わせれば、調整指定が5mV以内という直流漏れ(スピーカー出力に直流電圧がかかること)も、容易に0.5mV前後に収まることになります。もっとも、使っているうちにずれてきますけど。
Lチャンネルの直流漏れ0.3mV(上)とバイアス値
Rチャンネルの直流漏れ0.7mV(上)とバイアス値
HMA-9500Ⅱは、パーツのばらつきを吸収する回路になっています。だから、増幅率を合わせなくても良い音で再生するのですが、きっちり合わせれば次元の違う空間が表現されてきます。参考までに、取り外した古いパーツの増幅率hFEを掲載しておきます。ただし、数値は絶対的なものではなく、あくまでも僕の測定条件下での数値です。気温や測定回路で数値が変化するのだから、絶対的な数値など無いのです。大事なのは、取り付ける直前に測定してペアやコンプリが取れていることです。
初段カスコードペア(Qは回路図での番号)
Q701L 2SD666 hFE 87/ Q702L 2SD666 hFE 97 誤差11%
Q701R 2SD666 hFE 97/ Q702R 2SD666 hFE 102 誤差5%
(LRとも2SD667 hFE 185ペアに交換)
2段目ペア
Q703L 2SB648A hFE 112/ Q704L 2SB648A hFE 115 誤差3%
Q703R 2SB648A hFE 100/ Q704R 2SB648A hFE 115 誤差15%
(L 2SB648A hFE 119ペア、R 2SB648A hFE 117ペアに交換)
2段目カスコードペア
Q715L 2SC1775E hFE 408/ Q716L 2SC1775E hFE 495 誤差21%
Q715R 2SC1775E hFE 500/ Q716R 2SC1775E hFE 468 誤差6.5%
(L 2SC1775E hFE 395/396ペア、R 2SC1775E hFE 397ペアに交換)
3段目コンプリ
Q713L 2SD669A hFE 115/ Q714L 2SB649A hFE 148 誤差28%
Q713R 2SD669A hFE 123/ Q714R 2SB649A hFE 126 誤差2.4%
(L 2SD669A/2SB649A hFE 121コンプリ、R 2SD669A/2SB649A hFE 123コンプリに交換)
おそらく、比較的合っているのはオリジナルから壊れずに残っているトランジスタ。誤差の大きい物は修理屋が買ってきて取り付けたものだと思います。トランジスタ全交換と書いてあっても、全てに新品を使ったとは書いてありませんから、別のアンプからの取り外し品も交換に使われていたと思います。
僕の修理では、トランジスタ選別段階から1分測定をして使っています。選別品を売っている業者は30秒足らずの測定で、これでは数字が信用できません。測定し始めて、約1分頃に数字が1だけ変化することも多いからです。そうやって数字が完全に一致した未使用品を使っていますが、使えるトランジスタが絶滅しかけているので、泣く泣く1違いの誤差0.2%~0.5%も使うことがあります。
本当は誤差があっても良い定電圧電源とか保護回路とかも、せっかく選別したのだからと誤差のないものを使っています。信号増幅回路の誤差は3%以内なら超高級品アンプなので、僕のやっていることは無駄といえば無駄、悪あがきといえば悪あがきですけど。HMA-9500やHMA-9500Ⅱには、それだけ注いでも惜しくない魅力があるということです。でも、選別から漏れたトランジスタの使い道も考えないと (;^ω^)
修理完了後
右後ろはパイオニアのプリアンプC-90a
1988年の発売だから佐藤あり紗さんの生まれた1989年の製品かも
大洗祭り号のガルパン新聞と記念写真
イエスの遺体に掛けたとされる亜麻布の上に置いて修理している
エフライム工房 平御幸